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ケセランパサランの結婚式

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 ケセランンパサランは、桐の箱の中に白粉(おしろい)の粉を入れて、息が出来るように隙間を開けてしまっておくと、いつのまにか増えることが有る、のだそうです。
 私はこの話を聞いたときに古い組み立て暗箱カメラの素朴な磨りガラスのファインダーを初めて覗いたときの感動を思い出しました。目の前の光景が、木製の暗箱カメラの手のひらほどの大きさの磨りガラスの板に、その明るさを減じて、天地左右も逆さになってしまい、幾何的に縮小して平面に結像した様子は実際の光景を眺めただけの時よりもなぜか、心の中で少し何かが殖える、感じがするのです。

 ケセランパサランの正体というのはアザミやオキナグサなどの植物の冠毛、あるいは猛禽類が消化できなかったうさぎなど小動物の一部、そしてカルシウムが針状に丸く集合して結晶したオーケン石だったりするそうです。このことを知った時も植物動物鉱物にまたがるイメージに写真用のバライタ印画紙が植物と動物と鉱物の材料で出来上がったものであることを思い起こしてしまいました。 

 さて、こうして心の片隅に有ったケセランパサランのことですが十年ほど前だったでしょうか、JR新宿駅の中央線上り線ホームの一番東側のいつも日陰になっているあの辺りにふらふら飛んできた、たぶん植物の綿毛を、手のひらに包んで捕まえて、次に財布にしまって、それから白粉の箱にしまってそれっきり忘れてしまっておりました。
 
 もう十年も息が出来なかったせいなのか、この植物の種は白粉箱の中でやはり増えている訳でもなかったのですが、後日インド人から手に入れたオーケン石の白い丸い結晶の玉と一緒に冬至のころ、白粉の中で記念写真を撮ってみました。冬至の日には写真を撮るのももちろんいいのですがこうして何かが殖えるかもしれないまじないのようなことでもしながら過ごしてみるのもなかなかです。

 古いカメラの磨りガラスのファインダーはたいてい実際の景色より暗く見えながら心の中で何かが少し殖えるような不思議な力が有るように思います。
ケセランパサランを眺めている時に感じる壊れやすい儚いものが暗い箱の中で人が知らない間に殖えていく話と同じ種類の生殖や増殖のイメージが磨りガラスに現れることに惹かれるのです。

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text /photo ©Takehiko Inoue 2011


by fotochaton | 2013-12-24 23:59
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