カテゴリ:鏡玉本草( 22 )

別の火、鏡玉本草n°9。



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写真機は十九世紀の半ばより少し前のころ、この世に出現しました。

当時写真機は暗箱と呼ばれ、マホガニーや砂糖楓(さとうかえで)や菩提樹などの堅牢な木で出来ていて周りからの光を遮ることができるようになっていました。この木の函は、たいていひとかかえもあるような大きさでした。木の函の顔を正面から見るとそこには光った真鍮の筒に磨き上げた美しいガラス玉をはめ込んだ鏡玉(レンズ)が、ひとつ眼を光らせていました。
ガラスの目玉は石英や燧石(ひうちいし)を熱して精製をくりかえしたり、特別な場合は水晶や蛍石などの大きな塊から磨きだされてつくられていましたから、それはまさに宝物だったので「鏡玉」と呼ばれていました。暗箱の胴には革で出来た蛇腹(ふいご)、背中には磨りガラス板のファインダーがあって景色を映すことができました。ピントを合わせ構図を決めるとファインダーのところに種板(銀板やフィルム)ホルダーを差し込む仕掛けでした。そしてファインダーにはレンズの結像が天地左右逆さまに暗く写ります。ラテン語でカメラは「小さな部屋」を意味していてその内側はレンズが磨りガラスに映す景色以外はすっかり暗闇でした。人々は「ひとかかえもある大きさの暗い部屋」を苦労して持ち歩いてあたりの景色を磨りガラスに映し出しては、もう一つの暗く逆さまな世界を楽しみ、それを種板に写し取りました。

それはこの世に生まれたもう一つの景色でありまさに「別の火」でした


さてピントを合わせるとき、写真機に取り付けられた鏡玉は前後に動きそれにつられて蛇腹(ふいご)は伸び縮みするわけですからきっと暗箱の中では小さなつむじ風が起きたに違いありません。暗いささやかな別の火は暗箱の中の小さなつむじ風に吹かれて、逆さまに素敵に燃え上がることがあったはずです。人々は「別の火」のほのあかりが失われてしまわないようにフォトグラフィーとして保管したのです。

昔だけでなく今でも、この「別の火」はきっと燃えています。



ecurie
 


©Takehiko Inoue 2015
2015-03-09井上武彦、記

 

by fotochaton | 2016-07-08 07:30 | 鏡玉本草

井上武彦写真展、鏡玉本草 ' Jamin Darlot Objectif Universel '

沢山のご来場ありがとうございました。
この場を借りて御礼申し上げます。


前期 8月1日(土曜日)〜8月6日(木曜日)
鏡玉本草 ' Jamin Darlot Objectif Universel '

後期 8月8日(土曜日)〜8月13日(木曜日)
鏡玉本草 ' Jamin Darlot Objectif Universel 'のメインイメージ
鏡玉本草 ' Angenieux avec Nikkor 'のメインイメージ

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Angenieux 50/1.5 (S21) avec Nikkor Auto-H 50/2  2014年写真展DMより
会場での作品展示も左右一対です。
(左)Angenieux 50/1.5 (S21) (右)Nikkor Auto-H 50/2  
共に絞り値f2でのイメージ

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山火事を模倣する太陽
Jamin Darlot Objectif Universel
(nega 8x10in/print 50x60cm)

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未確認飛行体を模倣する太陽(部分)
Jamin Darlot Objectif Universel
(nega 8x10in/print 50x60cm)

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三日月あるいは箒星を模倣する太陽 n° 1 (部分)
Jamin Darlot Objectif Universel 11cm +11cm= circa6cm
(nega 4x5in/print 50x60cm)


古典鏡玉+オルソフィルム+逆光撮影=' 愛の発作 '
おかげさまで愛の発作は収まりました。
ありがとうございました。



井上武彦

'味読の人'
'別の火'



京都中央区入船2-5-9

アートスペース モーター
開館時間 12時〜20時
休館日 金曜日

tel 03-3552-0123

一般財団法人 戸部記念財団による企画展です。



update04-08-2015



by fotochaton | 2015-08-06 12:34 | 鏡玉本草

Rodenstock Monokel Satz Duplex=’ German Oddities '

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Odditiesの発生、鏡玉本草n°10

玉・対称構成に変身したローデンストックモノケルレンズ
=' German Oddities '




財団業務委託による企画撮影です。





by fotochaton | 2015-07-28 09:32 | 鏡玉本草

Odditiesの発生、鏡玉本草n°10。


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比には愛がない
Rodenstock Monokel Sats + Rodenstock Monokel Sats=' Oddities Duo '





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by fotochaton | 2015-04-01 18:13 | 鏡玉本草

秘密の挿入、鏡玉本草n°8

1990年から私はSiemens starを
被写体に挿入し撮影し始めました。
以来このチャートは引き出しの中にしまってあった
鏡玉(レンズ)たちの格好の標的となりました。

Leitz Noctilux50mm f1.2(M)
非常に古い時代の風景用単玉(18x24cm)
非常に古い時代の広角レンズ(18x24cm)
Leitz Summar 5cm f2 (LSM)
Kino-Plasmat 1+3/8in f2(LSM)
Angénieux 50mm f1.5


この禍星(まがぼし)は凝視する瞳にしばしば立ち眩みを与えるので
その怪しさに魅入られたわたしはこの星に撮影という矢を射るようになったのです。

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Siemens star+Vinaigre Franboise
Summar 5cm f2/ Nikkor Auto H 50mm f2

September 2013

©Takehiko Inoue

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Siemens star+Vinaigre Franboise
Nikkor Auto 50mm f2

September 2013

©Takehiko Inoue


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ecurie fotochaton作業スペースとsiemens star
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Siemens star+Vinaigre Franboise
Leitz Summar5cm f2

September 2013

©Takehiko Inoue



画像は2013年度後期ワークショップの予習として2013年9月に制作したプリントを
2015年1月伊賀のEcurie Fotochaton作業スペースにて試験的に半通過光展示したものです。



by fotochaton | 2015-02-10 09:17 | 鏡玉本草

額縁と非閉鎖、鏡玉本草 n°7

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text soon




©Takehiko Inoue 2013

by fotochaton | 2014-08-14 01:35 | 鏡玉本草

これはあぶないジーメンス星の怪異、鏡玉本草 n°6

記事の下にスクロールしていただきますとシーメンス星の画像が御座います。
まずはその前に本文のほうをお読みくださいませ。

下のジーメンス星チャートは黒と白のゾーンで描かれています。
幾何的に均等な図柄を
コンピューターで描いてもらいました。

見ていただければ分かりますとおり、
黒は黒、白は白、です。

しかし、とりわけ乱視のある方など、
このチャートを正面から短時間見ただけでも
チャート像にある種の乱れの部分を感じることかと思います。

そして、このジーメンス星(siemens star)に顔を近づけて
10cmから50cmくらいの
目前の距離で覗いてみると、、、、、


このチャート中心部に向かっていく幾何的な白黒パターンに
ある異変が起きているはずです。

おそらく皆さんの視界の中でチャート中心部の一点むかって、

白が黒に、
黒が白に

位相反転する、

それは更に
再位相反転したり
歪んだり
眼の調子によっては、
ちらちらとゆらぐようにも
見えたりします。

不思議な視覚効果が起きるかと思います。

この現象には視覚の生理現象として
モアレ現象など共に色々な説明が可能なのでしょう。
現象の説明は、
私は素人ですから専門家におねがいすることにいたしましょう。

私にとっての問題は、

この現象は人間の眼の中のそして頭脳の中の、
視覚系の中だけで起きるだけではなくて
写真レンズの結像でもかなりしばしば発生している、

と思われる。
そういういうことだったのです。

この現象に気がついた1990年頃から
人間の生理的な視覚現象に素人ながら興味を持ちました。

同様に、ジーメンス星と写真レンズの出会いには、
位相反転を含む

”いろいろな種の怪異”

が訪れることがある、
そういうあたりにひどく惹かれたのです。

そして、このチャートを実際に風景の中に置いてみて
いろいろなレンズで試写しておりました。

それは不思議な体験の毎日となりました。
(その原因は、試したレンズ群の中に
キノプラズマート5cm f1.5やノクティルックス50mm f1.2、
アンジェニュー50mm f1.5なども混じっていたから
なおさらだったかもしれません。)

次回にはその怪異の一端をお見せいたしましょう。

でも、恐ろしいからちょっとだけにしておきましょう。
こういうことはちょっとだけがいいのです。

さて、下のほうにスクロールすると
まもなく
ジーメンス星のチャート画像が御座います。
画像はあんまりじっと見つめないでください。
きっとひどく眼が疲れます。
さらっと、チラ見にとどめていただいて、
すぐに眼を閉じてくださいませ。
どうか、おねがいします。


画像及びテキストの無断使用は固くお断り致します。
















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チャートをクリックすると大きなチャートが開きます。
あまり凝視しない様にしてください。

上のチャートはともかくあまり凝視しないでくださいね。
ご参考程度に、チラ見してください。

おねがいします。

つづく、、、、、

© Takehiko Inoue 2012 Mar



by fotochaton | 2014-07-11 17:01 | 鏡玉本草

探し物を訴える張り紙、鏡玉本草 n°5


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愛するヨークシャーテリア
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探してくれた人にはお礼が、、、
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ロワイエ通りか29番のバスの中でいなくなった模様。








by fotochaton | 2014-07-10 04:16 | 鏡玉本草

写真機トーテムの休息、 鏡玉本草 n°4

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' Michel Gynandromorph' avec Semflex Angenieux 75mm f3.5
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写真機は人間の友達としてずっと人間の傍らにありました。
そしてその昔、多くの写真機は正装していました。
写真機は革や布を見事に縫製した立派な服装を纏っておりました。
正装を纏いながらも写真機たちはじつによく働きますから
時々休息を与えた方が良いのです。
休息の時間は服を脱いで裸で横たわっていればいい。

画像は私の尊敬する写真家の方に差し上げた中判カメラ用に流木を加工したグリップです。
ちょうど私が試写中だったセムフレックスにためしにフィットしてみたところです。

この写真家の方は数多くのカメラを即スタンバイさせるために
使用するカメラを一台ずつ
専用のレンズとセットの状態で専用の特注のジュラルミンケースに
保管されているとても几帳面な方です。
ですからこの方の機材のストック場には数えきれないジュラルミンの特注ケースが
実に整然と積みあげられていて本当に感心いたしました。
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さてこのグリップをセットされるカメラはたぶん
その写真家の方お気入りの古いドイツの二眼レフになることでしょう。
この二眼レフと流木のグリップ、ジュラルミンのケースの中で
どのような姿勢で休息の時間を過ごすのでしょうか?

もし、写真機がひそかに心の中の「トーテム」
ともいうべき存在になってきてしまった、、、、、
そんな人がいたとしましょう。
そんな「トーテミスト」にとって、
写真機に対して与えられる休息のようすは
その空想の中でも大きな関心事のひとつといえるのでしょう。
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©Takehiko Inoue 2011 Mar




by fotochaton | 2014-07-09 21:57 | 鏡玉本草

半通過光で見る写真展、鏡玉本草 n°3

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2007年、案内のポストカード。

'Hyperscope Conques 1986'は、
半通過光で「額装していない写真を見る」写真展でした。


非常に古いレンズを使用することは、1986年の私のチョイスでした。
このビデオは2007年、駆けつけてくれた田村政実君撮影、東京のリムアートにて。


私はConquesの光景を古いレンズで撮影しました。
それは、ちょっと昔、1986年のことです。
そのころ愛読していた'地球の歩き方、フランス編'という旅行ガイドに載っていたノエルさん
(古い青いボンネットバスの運転手さん)に会いに出かけたのです。
彼の運転する古いバスは個人営業とかでオーリャックとコンクを往復しているというのです。
そのときのわたしは8x10in判のカメラに古いレンズ、ホルダーを若干もっただけの不案内な旅行者でした。
あまり調べものもせずだれとも約束も無く飛行機に乗り、
いつのものか分からない時刻表を片手に電車を乗り継いでまずはオーリャックにたどり着きました。
幸運なことにオーリャックの駅前のバルですぐにノエルさんを見つけることが出来ました。
なんといっても最初にこの町で話しかけた相手がなんと彼だったのです。
彼は青いバスは古くなりもう動かなくなってしまったのだといいます。
バスはわずか5人乗りのルノーサンクという普通の小型車に変わっていました。
小さなルノーサンクは道中の立ち寄り先できまって後ろのハッチをあけるのですが
ノエルさんの積み降ろす荷物は肉屋からハム屋に届ける肉の塊や大きな郵便袋など様々でした。
途中から乗合った家族たちと私自身の大きな荷物もあって長い道中はいよいよ窮屈でした。
舗装がときどき荒れた路を数時間も揺れながらたどりついたConquesは小さな村でした。
わたしはホテルで荷物を解くとハイペルゴンやラピッドアプラナートと
言った古い時代のレンズをつけた8x10in木製暗箱カメラをもってすぐに歩き始めました。
あてもなくペイブメントをすすみ村の外れにいくと森がひろがっていて
細く続く踏み跡を行く私の目の前に一羽の放し飼いの雄鶏があらわれました。
後を追うと彼は私を誘うかのようにように鶏歩し、
そして小走りし、長い間、彼と森を一緒に彷徨いました。
やがて彼は大きく羽ばたくようにするとはるかに低い崖の下に飛んで去っていきました。
そしていきなり私は路を失ってしまいした。
私は少量の野生のラズベリーと湧き水で午後の空腹を満たしながら森の中を迷い
教会の鐘の鳴る方向を頼りにやっと道をみつけ村に戻りました。
次の日、村にただ一軒のアリモンタション(よろずや)で地図を手に入れることができました。
そして2日もするとこの村を歩き回り尽くしてしまい8x10inカメラでの撮影を終わりました。
で、私は帰り道をノエルさんにお願いしようと普通に思ったのです。
ですがこれが一筋縄ではいきませんでした。
このいきさつは私の旅の一番の想いでなので
いつか皆さんにお話し出来る機会があればと思います。

さて日本に戻り、撮影したネガを田村政実さんに預けて現像を依頼しました。
当時、テスト現像された数枚のネガを見て私と彼は現像方法を保留しました。
それから私と彼はおよそ50枚のネガのことを20年間ほど忘れてしまいました。

しかし、2006年に彼がこれらのネガのことをふと思い出して現像してくれました。
約20年間現像されなかったネガは、iso125の感度のコダックのプラスXというフィルムを
iso25で撮影していたにもかかわらず適正に現像されていて、私は非常に驚きました。

2007年、わたしはある日突然思い立ったようにそれらのネガをプリントしようと思い立ちます。
それは、深夜のうたた寝の時間に見た夢にあらわれたプラチナプリントの方法を
じっさいに試してみたいというその場の衝動がきっかけでした。

私は、深夜にとつぜん乳鉢と乳棒を自分の部屋から持ち出すと
餅米と重晶石を砕いてはガーゼで濾す作業を繰り返しました。
コットン紙に自家製の白玉粉と重晶石の粉、
さらに鹿膠(しかにかわ)を加えたペーストを練って紙に塗り
圧力をかけて乾燥させ数日掛けて紙の質感を整えました。

こうして石のように固く平らに乾いたコットン紙ができました。
あとはプラチナのエマルジョンをオーソドックスに刷毛で塗って
紫外線で感光させて8x10in密着でプラチナプリントに仕上げました。

そのプリントは光の溢れた部屋で眺めてみるとその細部はよく透けて見えるのでした。
私はプリントを額装せずにハンガーに洗濯バサミで吊るす展示法を思い立ちました。
プリントは天窓からの自然光が溢れ風通しも良いギャラリーで展示することにしました。


'1986 Conques Hyperscope'
Photographs,semi-transparent.
Shiratamako Platinum 8x10in contact prints.
Rice powder(Shiratamako),deer glue(Shika Nikawa),
barite powder on cotton paper.

I took photograIphs of view,Conques France,to use an antique lens in 1986.

I asked laboratory,Mr.Tamura to develop the film.
He and I checked 50 sheets of negatives
and decided to hold the development method.(8x10in sheet films)

But we both had forgotton of it for about 20 years.
In 2006, Mr.Tamura remembered
that we had reserved the development method so he developed the film again.
Though the film had been 20 years i was amazed to look at proper negatives.

I tried to made prints with rice powder,deer glue and barite powder
on cotton paper for these negatives.
I had a exhibition with these prints,
08-June-2007 TOKYO Limart Ebisu.

"Goerz Hypergon 75mm/f22"
"Single meniscus Lens for Daguerréotype or Camerae obscurae 45cm/f45",etc,
were my choice for these images.



2007年に会場のリムアートで配布したポストカードとお菓子を真空パックしたノベルティ。

video ©Masami Tamura 2007
photo+text ©Takehiko Inoue 2011


by fotochaton | 2014-07-09 04:11 | 鏡玉本草